集中力は「養う」ものではなく「覚える」もの?

全英オープンにも集中力アップのヒントがあった

来月7月には、ゴルフのメジャータイトルの一つ、全英オープンが開催されます。この大会で四度も優勝し球聖とうたわれるオールド・トム・モリスは、パッティングの名手でした。その彼が伝えたパットの秘訣は、「カップインは耳で聞け」。初心者でも入りそうなイージーなショートパットのときこそ、この教えを厳守せよといっています。

理由は、短いパットほどボールの行方が気になり、ストローク中にボールを目で追ってしまうからです。目で追えば顔が動き、顔が動けば体の軸が動いてしまう。するとパッティングのフォームに狂いが生じ、短いパットでも意外にミスが出やすくなるのです。
一端パッティングストロークの強さや方向をイメージしたら、それに「集中」するために、インパクトまではボールを見るが、その後はボールの行方を追ってはいけない。ボールのカップインの瞬間もあえて見ないで、カップインを知らせるポコンという音を耳で聞き、それからやおら顔を上げてカップを見なさいといっているのです。そうすることによって、イメージ通りの正しいストロークが行えると教えています。

オールド・トム・モリスこの教えは、ゴルフのみならず、「集中力」というものを考えるうえで、非常に重要なヒントを与えてくれます。
集中するためには、正しい方法が必要だということです。正しい方法を知らなければ、集中しようとしても、よい結果は出ません。むしろ集中しようと意識すればするほど、悪い結果を導きがちです。
したがって、集中しようと思わなくても、その方法を守ることにより、上質なパフォーマンスが自然に生まれ、好結果が得られることが重要なのです。私たちはそのメカニズムを、オールド・トム・モリスの教訓から学ぶことができます。

イチローが教える集中力の秘訣

集中力は好結果が得られてこそ、意味のあるパワーです。言い換えれば、好結果が得られるようなパフォーマンスを維持するための条件を整える力を、集中力と定義したほうがよいでしょう。
そう考えると、メジャーリーグのレジェンドの一人となったイチローもまた、集中力を高めるために役に立つ方法を示しているということができます。

彼は、バッターボックに入るとき、屈伸運動をしてからスパイクの泥を落とし、スタンスを決め、そしてバットを振りかざして右肩の袖口を左手の指でたくしあげるなど、一連の動作はいつも同じです。ルーチンとしています。
なぜ、ルーチン化するかといえば、自分のリズムを作るためです。

そもそもバッティングには、自分の心地よいリズムが必要です。自分のリズムが保たれているとき、反射性能が高まり、フィジカルパワーもマッスクに達し、よいバッティングができます。ピッチャーの投球リズムに、自分のバッティングのリズムを合わせようとすると、反射性能が十分発揮されず、フィジカルパワーも不十分となり、なかなかよい結果が出ません。
そこで、そのバッティングのリズムづくりの前提として、バッターボックスに入る前から、あえていつもと同じ動作、ルーチンを行なうのです。ルーチンを前奏曲として開始し、いわばサビ、クライマックス=スイングにおいて、最高のパフォーマンスが発揮できるよう自分のリズムを整えていくわけです。

そして、ルーチンには、もう一つの効用があります。それは、プレッシャーからの解放です。パフォーマンスを阻害する大きな要素として、プレッシャーがあります。プレッシャーから逃れ、平常心でパフォーマンスに臨むためには、いつもと同じ手順を踏むことです。いつもと同じ動作は、いつもと同じ心の状態を作ります。

ルーチンのこの効き目は、いうまでもなくスポーツに限ったことではありません。大事な会議でのプレゼンテーションに臨むときには、その朝いつもと同じ回数うがいしたり、いつもと同じに右足から玄関の外に出たり、いつも通りに行動することにより、自分の心のリズムが整い、あまり緊張しないで本番に向かうことができるのです。

長嶋茂雄に、そして各界、各分野のトップに近づくために

「精神一倒何事かならざらん」。確かに、精神を集中して事に当たれば、どんな難事でも成就しないことはない、という言い方もできるかもしれません。しかし、そんな大ざっぱな表現ではなく、オールド・トム・モリスやイチローのように、もう少し具体性のある「集中」の方法を教えてもらいたいものです。

日本プロ野球史上最高のスーパースター、ミスターこと長嶋茂雄は、バッティングの奥義をこんな斬新な言葉で伝えました。「コルクを打て!」。ボールをよく見て打て、とはよくいいますが、ボールの中心にある直径2センチほどのコルクを打てといった人はいません。「ボール」などといった漠然とした大きさのものではなく、「コルク」というピンポイントを示すことにより、集中力は確実に増します。

集中力は滝に打たれて修業することによって養える面もあるかもしれせんが、適切な方法を覚えることで、身に着けることができる場合も、多々ありそうです。

私はかつてバスケットボールのプレーヤーでした。延長戦になると、なぜか集中力が増し、シュートがよく入り、必ず勝利しました。理由は簡単です。初めての大会の初めての延長戦で、投じたシュートがすべて入り勝ったからです。成功体験もまたリラックスするための根拠となり集中力を高め、よりよいパフォーマンスを生むために効果を発揮するようです。

他にはどんな手段や工夫や考え方があるのでしょうか。「養う」のではなく「覚える」集中力を知ることができれば、オールド・トム・モリスやイチローや長嶋のみならず、各界、各分野のトップポジションに、また一歩近づくことができるに違いありません。

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執筆者プロフィール

中川 越 (なかがわ・えつ)
中川 越作家
1954年東京都生まれ。スポーツ指導書のプロデューサー、ライターとして、30年余のキャリアを持つ。これまでに手掛けたスポーツ指導書は50余冊に及び、総発行部数は150万部に達する。10万部を超えるヒット作は、「スポーツ別筋力パワーアップトレーニング」「スーパースターに学ぶ バスケットボール」「はじめての硬式テニス」「はじめてのバスケットボール」「上達する!水泳」など、多数ある。ビギナーにもわかりやすいスポーツ技術のコツを、わかりやすい文章と要点をとらえたイラスト、写真、映像などで紹介し、長年にわたり多数の読者の支持を得ている。
また、さまざまな書簡・手紙を手掛かりに、そのエッセンスを紹介するなど、多様な切り口から手紙に関する書籍も執筆している。著書に、「夏目漱石の手紙に学ぶ伝える工夫」(マガジンハウス)、「結果を出す人のメールの書き方」(河出書房新社)他多数。
オフィシャルサイト:https://sites.google.com/site/nakagawaetsu/
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